W.おわりに

 以上の議論から明らかなように、最高裁判所の視点は、統治者として現状に立脚した上で、全てのものを現状の枠の中で検討するという視点であり、21世紀の日本のあるべき姿を模索する視点ではないと言えます。戦前の陪審制度の実現に際しては、わが国は多額の費用を費やして国民を啓蒙し、評決に拘束力を待たせないなどの 法的不備があったものの、陪審制度を立派に運用しました。
 また、普通選挙制度の導入に際しては、「日本人の国民性に合わない、国民には能力がない、世論はもとめていない、専門化に任せれば良い、外国では失敗している。」等、最高裁の議論と酷似した議論がなされたことは、1925年当時の帝国議会における普通選挙法案審議の議事録から明らかです。これらの事柄を合わせ考えれば、陪審裁判制度導入に対する危惧が杞憂であることは明らかです。
 案ずるより生むが易しであります。裁判所法第3条第2項には、「この法律の規定は、刑事について、別に法律で陪審の制度を設けることを妨げない。」と規定されてもいます。陪審裁判制度を明確に再導入し、21世紀の日本の民主主義を確固たるものにし、国民一人一人が権利と責任を分かち合うことを実感できる社会にするこ とを願うものであります。